在名商社輸出座談会
環境、スピード、人材が鍵
国内市場の縮小が続く中で、海外市場をいかに開拓するかは
繊維業界の共通課題の一つ。その一翼を担うのが繊維専門商社であり、
テキスタイル輸出における彼らの重要性は年々高まっている。
瀧定名古屋、タキヒヨー、豊島のテキスタイル輸出担当者に、
輸出拡大の課題について語り合って頂いた。
魅力ある商品作り第一
――まずは各社のテキスタイル輸出の概要についてお聞かせ下さい。
黒田氏(以下、敬称略)
国際貿易推進部は主に紳士服地、婦人服地の輸出を行っています。
マーケットに応じて商品開発したものが全体の約3割、
残り7割は国内向けに企画提案している商品を海外市場向けに目付、色柄、
仕上げなどでモディファイしたものから成り、
両者を合わせたハイブリッド提案を行っています。
輸出先はアジアが最大市場である中国のほか、韓国、香港、台湾。
香港は地場ではなく、主に欧米向けにオペレーションを行う
企業に対する提案が主体となります。
欧州向けは2年前に瀧定欧州事務所をオランダ・アムステルダムに設け、
そこを拠点にして、いかに市場へ根を張るかに取り組んできました。
その中で欧州市場では当社のテキスタイルが十分通用する魅力的な市場であると
感じでいますので、さらに一歩踏み込んでいきたいと考えています。
米国・カナダの北米向けは東海岸と西海岸を中心に展開しています。
岩田
国際営業部貿易部は輸出621課と輸入622課で構成しており、
輸出入を兼ねている部となります。
その面では海外の情報交換などはやりやすい体制です。
テキスタイル輸出の仕向け地は欧米が6割、米国3割、アジア1割の構成比率です。
今後、伸ばすべき市場は分かっています。
さまざまな課題はありますが、アメリカ、イタリア、アジア地区の事務所や
現地エージェントおよび各メーカーと協力しながら
海外に向けてより良い商品を拡大していきたいと考えています。
濱野
当社には現在、輸出専門の部署はありません。
三部傘下で、精製セルロース繊維「テンセル」や国内の織物販売を行う10課が
テキスタイル輸出も手掛けています。
輸出先は北米、欧州、中国がほぼ均等の形です。
これは1年前と大きく変化していません。
三国間取引を含めた当社の輸出売上高の大半を綿花が占めますので
テキスタイルは輸出全体の10%ぐらいです。
その面ではまだまだ伸ばしていかねばならないと考えています。
新規開拓は地道に行っているのが現状です。
輸出を担当して1年になりますが、
与信面を考えるとあまり広範囲に広げるのは危険な部分もありますので、
当社の商品等にマッチする需要家に深く入り込むスタイルで進めていきたいと考えています。
為替変動は意識しない
――昨年の同時期に為替相場は1㌦=100円ほどでしたが、現状は110円強です。
為替の変動も含めて輸出環境はこの1年でどのように変わったと考えておられますか。
岩田
円安によるメリットはあると思いますが、円安になっただけで売れるわけでもありません。
その時々の販売努力や開発努力を地道に行わないと、
マーケットは広がっていきません。
やはり、世界的に競争力のあるテキスタイルを開発することが鍵を握ると思います。
いかに魅力ある商品を産地企業の皆さんと共同で開発するか。
日本でしか作れない商品を追求していかないと海外市場を開拓するのは難しいと思います。
濱野
円高だから値上げするというのは通用しません。
逆に円安だから安くしろという要望もありません。
やはり、テキスタイルに価値があるかどうかに尽きます。
テキスタイル輸出では為替動向に左右されるのではなく、売れるものをしっかり作る。
もちろん、昨年の同時期に比べれば円安ですから採算は改善しています。
しかし、それで数量が伸びているわけでもありません。
その面で輸出環境が大きく変化したとは考えていません。
黒田
為替相場はそもそも動くものなのであまり意識していません。
また日本品はもちろんの事、三国間貿易も行っているため、
円とドル、ユーロの関係だけに中止するのではなく、
ドルとユーロ、豪ドルとドル等、幅広く相場を見る必要はあります。
皆さんと異なるのは当部が輸出専門の部署である点です。
その面では為替相場の影響を受けない、ドル仕入れ・ドル販売を増やすことは
為替リスクを軽減させる一つの手法です。
仮に円高によって円換算が目減りしたとしても、
ポイントが下がるわけではありませんから。
最も大切なことは、日本製テキスタイルを中心にメッセージ、
ストーリーを付けて、いかに提案していくかが重要です。
――輸出環境という面で、日本と欧州連合(EU)とのEPAが大筋合意しました。
自由貿易の進展によるテキスタイル輸出への期待はありますか。
濱野
為替相場と同じで、本当に必要な商品であれば関税関係なく購入しますよ。
岩田
関税はあまり関係ありません。
輸入は多少プラスになるかもしれませんが、その分の日本の製造業が厳しくなります。
そうなると、産地を守るにはどうするか考えねばなりませんが、
消費者目線でどのような商品開発をしていけば世界で受け入れてもらえるかを
追求していくことが大切ですし、それが競争の本質だと思います。
黒田
あまり意識したことがありません。為替と同じです。
今後は複数国の協定よりも1対1の自由貿易協定が加速するように思いますが、
そうなったときも付加価値の商品をいかに早く作るかに重きを置きます。
もちろん、ライバルになる国、合繊なら韓国、綿やウールだと中国が、
どのような協定を結んでいるかは勉強の必要はあります。
環境配慮 重視される
――為替相場や自由貿易の進展以上に、輸出環境の変化はありますか。
黒田
大きく変わったと思えるのは環境配慮型の重要性です。
サステイナビリティー、トレーサビリティなど
いかに地球環境に配慮したモノ作りに取り組んでいるかが、
欧州市場ではより重要になっています。
商品以上にその企業がどのように環境問題に取り組んでいるか
姿勢が問われています。それをどう発信するかが大切です。
――仏「プルミエール・ヴィジョン」(PV)ではブースで環境配慮型企業である点を
瀧定名古屋さんは訴求されていましたね。
黒田
これまでPVはいかに物を売り込むかに重点を置いた展示を行っていましたが、
9月展ではあえてブースの3分の1を環境に配慮している姿勢を発信する場に変えました。
これを見た、これまで商いのあるスポーツアパレルファッション衣料担当者が
他の担当者も呼んでくれました。
来場者が他の来場者を連れてきてくれたわけです。
その面で会場ではいかにメッセージを発信することが重要かということを感じました。
日本では強く意識することはありませんが、
リサイクルはじめ地球環境、動物愛護などが欧州ではより重視され、
各社が関心をより強く持っています。
濱野
サステイナビリティーという面ではテンセルを製造販売する
オーストリアのレンチングがかなり力を入れていますね。
そのために多額の資金を投入しています。
ただ、環境配慮素材はどうしても量が限られコストも高くなってしまいますし、
市場は限られていますのではありませんか。
黒田
そうですね。現在は環境配慮素材ということで
海外では10円、20円高くても買ってもらえていますが、
いずれ環境配慮素材だから高いというのは通用しなくなると思います。
ですから、いかにほかの商品と同等か価格で提案できるかも重要です。
もう一つ、環境の変化という意味ではスピードですね。
期近での発注が増えていますので、リードタイムが短くなっています。
今後はテキスタイルから縫製までの輸送機関も究極ゼロにまで、
いかにして実現するかも課題になるでしょう。
今後こうしたニーズが表れてくるのではないでしょうか。つまり、一貫生産の提案です。
岩田
伝達能力の発達によって、世界的に時間というか、流れが早くなりましたね。
黒田
繊維と歓迎内業界の方も違う角度で参入されていますので、別次元の動きもあります。
岩田
その面ではITと組み泡あせないと、難しい時代になっています。
濱野
米国では大手小売業ほど厳しくなり、逆に電子取引(EC)が伸びていますね。
岩田
ECの成長は米国が特に顕著です。
また、変化という意味では天然皮革が不足しているといわれています。
米国人の牛肉を食べる量が減ったことが要因の一つです。
そこに中国化高品質の天然皮革を調達するため、
高品質品が玉不足になっています。
動物愛護の観点で毛皮からフェイクファーへの動きもあります。
さらにサステイナビリティー、トレーサビリティーに加え、
CSRなどに対して若い人ほど敏感になっています。
その面ではこれからも市場は変化すると感じています。